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2002年後半の政治戦略

出典: Suzutayu's「べネズエラの政治」

状況が動きすぎたので、考えを整理しておく。

目次

大統領派の政治戦略

チャベス大統領の真意

 大統領制の国では、大統領の真意は謎のベールに包まれていることが多い。ラジオやテレビで長広舌をふるうチャベスにしても同様である。

 「真意の謎」を、日本のような議院内閣制と対比して説明しよう。議院内閣制の政府は、単独政権の場合でも、派閥の連合体であり、支持団体・支持層の連合体である。首相は、自分がやりたい政策を持っていても、反主流派や一般議員からの突き上げを適当にあしらわなければならない。野党に対して強く出られるときでも、与党の周辺支持層を無視するやりかたをとれば、次の選挙で敗北してしまう。そんな首相は失格の烙印を押され、同僚から引き摺り下ろされる。そうした事態を避けるためには、与党内部の有力政治家に小出しの譲歩をするのが手っ取り早い方法である。

 大統領制の場合も、勝利した大統領が小異を抱えた連合体であることは同じである。ところがこの場合、一人に絶大な権限と正統性が集中しているので、自陣営内部からの抵抗に対する譲歩が難しい。大統領制の有力政治家なるものは、大統領が任命したおかげで偉くなった人で、大統領にそっぽを向かれたらただの人である。閣僚の反対者はクビにすればいい、与党議員の反対者は無視すればいい、大統領にはそれができるのだと皆が思っている。大統領が自分の意に反して内部に譲歩することなどありえない。

 しかし、政治家に対してはそれでいいとしても、一つの答え以外を排除するような政治運営では、支持層レベルでの政治連合が瓦解してしまう。だから、大統領の真意は謎のままでなければならない。自らは威勢のいい発言を繰り返しつつ、人事においては慎重な人物を要職につけ、絶大な信任を与える。しかしまた急進派の過激な行動を止めることもしない。互いに矛盾した硬軟両路線を同時に動かすのが、チャベスのスタイルである。

政府内の対話派と強硬派

 対話プロセスを動かす対話派の代表はランヘル副大統領、現在反政府派を弾圧する役回りにあるのはカベジョ内務司法大臣。それぞれ政府内の対話派と強硬派の代表で、政府内で両派の綱引きがあることは間違いない。与野党の両対話派には、裏で意見交換のパイプがあるようだ。しかしチャベスが二つに引き裂かれているわけではない。政府レベルでは、両輪を同時に動かす一個の戦略があるのだと見ておきたい。

 ただしこの場合でも、不満を持つ人々は支持層から脱落していく。2000年選挙後のチャベス政権の歴史は、対話派がしだいに脱落していく過程でもあった。これはしかし、大統領制の政治ではどこでも見られることで、特別めずらしいことではない。

過激派の存在

 2002年を通じて、政府支持派の集団が、マスコミと反政府デモを目の敵にしてカラカスで暴力事件を頻発させている。ピストルを持ち、群衆にまぎれたり少人数で動いたりするこの集団の背後関係は、参加者が逮捕されても証拠不十分で釈放されてしまうので確定できない。政府からの圧力で釈放されているという勘ぐりもできるが、どうやら警察にとってそれが通常のやり方のようである(政治犯を作らないため)。

 その暴行には明らかに政府を不利に追い込むようなものもあるので、チャベス政府の直接の指示で動いているわけではないだろう。だが、チャベス大統領は決して彼らを非難したり叱責したりしない。反政府派側に反発を買うような咎があることを指摘するのが、事件に対するチャベスの標準的回答である。公的機関を用いた民衆弾圧には慎重だが、支持者民衆の暴力を抑える政治努力はしないというのが、チャベス政府のやり方なのだ。

 ボリバル・サークルなどチャベス派の街頭行動組織については、やがて詳細が判明する時が来ると私は思っている。その時とは今年や来年ではないだろう。今ある危機の分析に役立たない悠長な言い方ではあるが、自分の無知を憶測で埋めるわけにもいかない。

反政府派の政治戦略

分裂した戦略

 二つの路線を同時進行させる一つの戦略という考えは、反政府派にはあてはまらない。民主調整者という調整機関はあるが、反チャベスという以外の共通点はそこにない。右翼から左翼まで、対話派から強硬派まで幅がある。そして二つの軸は右翼イコール強硬派、あるいは右翼イコール対話派などというようなすっきりした結びつき方をしていない。また、国民投票後の展望は、民主調整者にはない。それを考えようとすると連合が成り立たないからだ。あるのはチャベス打倒の戦略だけで、それさえも内部分裂を抱えている。

対話派の戦略

 政党では正義第一、また著名な市民団体のかなりの部分がここに属する。政府との対話を通じてチャベスの早期辞任の道を探り、暴力的な解決は極力避けようとする。ストライキやデモの盛り上がりを見ればチャベスは自分の不利を悟って譲歩すると主張している。しかし、内心のところ、チャベスが簡単に引き下がる男だとは思っていない。早期辞任の可能性はないと考えており、人々の不満を持続させ、かつ暴発させないために大衆動員をかけている。

強硬派の戦略

 強硬派は、政党では民主行動、またCTVとフェデカマラスの労使指導部である。ひたすら圧力をかけてチャベスを屈服させようとする。チャベスは話が通じる相手ではないから、交渉を通じての解決のみこみはないというのが彼らの主張である。対話派と同様に、ストライキやデモの盛り上がりを見ればチャベスは屈服すると主張しているが、対話派と同様に、その可能性を信じていない。むしろ暴力的弾圧を引き出すことで、チャベスを孤立に追いこむことを狙っている。そのためには、暴力を使うのはチャベス派であり、自分たちは平和を信じていると宣伝しなければならず、そのように宣伝している。  

クーデター派

 強硬派の中に、クーデター派がある。強硬派と同様の状況認識にもとづき、最後の一手を軍事クーデターに頼ろうとする。ベネズエラには、国民の過半数には及ばぬものの、クーデター容認論の根強い系譜がある。強硬派のかなりの部分は、クーデター計画派ではないにせよ、クーデター待望派だと思われる。自分たちの立場をマスコミを通じて宣伝することはないので、その実勢力は不明である。

反政府派指導部の呼びかけ

 反政府派の公式的な戦略は、平和的なスト・デモを通じて政府に圧力をかけ、与野党対話の場で国民投票を認めさせ、これによってチャベスを辞任させるというものである。しかしこれは諸派の共通項をとった口当たりのいい公式であって、この通り信じている指導者は実はあまりいない。対話派の指導者は、チャベス辞任の可能性について懐疑的だった。強硬派の指導者は、ストやデモの平和的可能性に懐疑的で、むしろ暴力的弾圧を望んでいた。だがそういうことは国民への呼びかけで言ってはいけないのである。

分極化と不穏な展望

 現状では反政府派が優勢である。国民を敵に回したチャベスが悪あがきをしているだけというなら単純なものだが、そういう話でもない。現在のチャベスの支持率は2割から3割で、4月クーデター未遂の時点と同水準と思われる。これはまた、離反していない支持層がまだあるということでもある。世論調査の支持率が8割に達するような時でも、選挙におけるチャベス派の得票は有権者の3割強にすぎなかった。国民の半分が棄権に回ることで、これまでのチャベス派の圧勝は演出されていた。国民の過半数がどちらにも流れる無党派というのは、90年代後半以降の政治分析で、常に念頭におかなければならない事実である。棄権層が4、チャベス支持層3、野党支持層3、ただしそれぞれの3のうち1は状況が悪化すると脱落する、と見ればいいだろうか。

 ペルーのフジモリは、もともと弱かった与党をさらに冷遇して個人権力を強化した手法がたたり、政権末期にはどこにも固い支持を持たなくなっていた。よって、孤立した一人が誰にも相談せず逃げ出せばそれでおさまった。チャベス派はフジモリよりずっと強く根を張っている。孤独な独裁者一人が辞任すれば後はみんなが仲良くできるという予測では、楽観的すぎる。

 適当な期間をおいて選挙にもちこむのは、チャベス支持者に後退を納得させ、ある程度の地歩を残させつつ事を進められる点で、有望な脱出口である。こうした和平プロセスの困難は、平和は皆で作らなければならないが、戦争は一部が望めばできるという点にある。対話路線の成功は、対話派の行動ではなく強硬派の行動にかかっている。対話派がいくら努力しようと、対話を望まぬ者が事件を一つ起こせば、それで事態は押し流されてしまう。

 他方、強硬派主導の政局では、政府による弾圧が避けられない。これにはチャベス政府の弾圧だけでなく、新政府による弾圧の可能性も含む。チャベス派がしきりに想起するチリのクーデターでは、皆がいらだった不穏状態の後に、軍事政権が数千人を殺し刑務所を政治犯で満たす悲惨な結末がもたらされた。冷戦後の南米で同じ強度の弾圧はおこりそうにない。だとすると、強硬派主導の政権交代では、攻守ところを変えた不穏状態が継続する可能性が強い。

"http://suzutayu.s156.xrea.com/Venezuela/index.php/2002%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E5%8D%8A%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB%E6%88%A6%E7%95%A5" より作成

このページは 338 回アクセスされました。 最終更新 2006年12月18日 (月) 04:09。 Content is available under 帰属-派生禁止 2.5 .


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